【照会要旨】
当社は、取引先法人であるA社に対して貸付金を有していますが、A社の経営状態が悪化して債務超過に陥り、A社は破産手続開始の申立てを行いました。その後、破産手続開始の決定があり、破産債権の届出、破産債権の確定、破産財団の換価に伴う配当が終了し、破産手続終結の決定がありました。
法人税基本通達9-6-1に列挙されている法的手続において金銭債権が消滅したと認められる事実には、破産手続終結の決定は含まれていませんが、当社はA社の破産手続終結の決定があった日の属する事業年度において、A社に対する貸付金の額を貸倒れとして損金の額に算入することができますか。
なお、本照会においては、次の1及び2のことを前提とします。
1 当社は、A社の破産管財人から配当金額が零円であることの証明を受けておらず、A社の破産手続終結の決定前において、A社からの配当がないことが明らかであると認めるに足りる事実を把握していないこと。
2 A社の破産手続終結の決定時点において、A社に残余財産が存在しないこと。
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【回答要旨】
A社の破産手続終結の決定があった日の属する事業年度において、A社に対する貸付金の額を貸倒れとして損金の額に算入することとなります。
(理由)
1 法人税法第22条第3項第3号において、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべき金額として、「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」が掲げられており、この損失には、法人の有する金銭債権についてその事業年度に貸倒れが発生した場合の貸倒損失が含まれます。これは、その貸倒れによって金銭債権の資産価値が消滅することから、その金銭債権の消滅損が認識されることとなるためです。
したがって、金銭債権が貸倒れになったかどうかは、第一義的には、その金銭債権が消滅したかどうかにより判定されることとなります。
2 法人税基本通達9-6-1は、このような考えから金銭債権が消滅することとなる事実として同通達の(1)から(4)までを列挙しているものです。
具体的には、法的手続における裁判所の更生計画認可等若しくは特別清算に係る協定認可の決定により(同通達(1)及び(2))、又は、
当事者間における合意内容の合理性が客観的に担保される状況の下での合意により(同通達(3)及び(4))、法人の有する金銭債権が消滅したと認められる場合には、それぞれに掲げる金銭債権の額に相当する資産価値が客観的な事由により消滅したものといえますので、税務上、これらの金額をその事由の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する旨を定めています。
3 破産手続終結の決定は同通達(1)及び(2)に列挙されている法的手続に含まれていませんが、これは、同通達がその金銭債権を消滅させる法的手続を列挙したものであるところ、破産法における法人の破産手続においては配当されない部分の金銭債権を法的に消滅させる手続がないためです。
このように、法人の破産手続においては、個人の破産の場合と異なり配当されない部分の破産債権を法的に消滅させる免責手続はない(破産法248、253)ものの、裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めて破産手続を終了させる場合には破産手続廃止の決定(破産法216、217)を行い、又は配当を実施して破産手続を終了させる場合には破産手続終結の決定(破産法220)を行うこととされ、残余財産が存在しないときは、これらの廃止決定時又は終結決定時に破産法人の法人格が消滅することとなります(破産法35)。このことからすると、これらの時点において、破産法人に残余財産が存在しないときは、その廃止決定又は終結決定により法人が破産法人に対して有する金銭債権もその全額が消滅したとするのが相当であると解されます。
そのため、残余財産が存在しない破産法人について破産手続終結の決定があった場合、その破産法人に対する金銭債権は消滅したと考えられますので、その金銭債権の額はその破産手続終結の決定があった日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入することとなります。
4 本照会において、A社の破産手続終結の決定がなされた時点において、A社(破産法人)に残余財産は存在しないことから、A社はその時点で法人格が消滅し、貴社が有するA社に対する貸付金も消滅したと考えられます。
したがって、貴社は、A社の破産手続終結の決定の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、A社に対する貸付金の額を損金の額に算入することとなります。
なお、例えば、破産手続終結の決定前であっても破産管財人から配当金額が零円であることの証明がある場合や、その証明が受けられない場合であっても破産法人の資産の処分が終了し、今後の回収が見込まれないまま破産終結までに相当期間がかかるときなど、破産手続終結の決定前であっても破産法人からの配当がないことが明らかな場合は、その明らかとなった事業年度において、法人がその有する金銭債権に係る貸倒れとして損金経理をすることができます(法基通9-6-2)。
法人税法第22条第3項第3号
法人税基本通達9-6-1、9-6-2
以上です。