個人事業を引き継いで設立された法人について、個人事業当時から引き続き在職していた使用人の退職に伴い、「退職金」を支給した場合は、一般的にはその退職金には個人時代と法人成り後の両方の勤務に対応する分が含まれていると考えられます。
そのため、原則として個人時代の勤務に対応する部分の金額は法人の損金の額には算入されず、個人事業の最終年分の事業所得の計算上、必要経費になります。
しかし、その退職が法人設立後相当の期間が経過した後であるときは、その支給した退職金の金額が法人の損金の額に算入されます。
この場合の「相当の期間」は、「法人税基本通達 逐条解説」では、『課税上弊害のない限り、一般的には個人所得税の最終年分の減額更正との関連において理解しても差し支えないであろう。』とされていますので、最低でもおおむね5年以上ではないかと考えられています。
ただし、条文等に明記されているわけではありませんので、5年以上経過していたとしても、個人時代の職務期間の割合が大きすぎる場合などは、本来、個人時代に負担すべきものであったものとして否認される可能性も考えられます。
また、個人事業主や事業専従者であった者については、個人事業当時の在職期間を勤続年数に含めることはできないものとされた裁判例があります(福島地裁H4.10.19,裁決H20.11.21)。また、所得税の計算における勤続年数についても、法人設立の日から法人を退職するまでの期間が勤続年数となるため、個人事業であった在職期間を通算することはできないものとされています。
個人事業主や事業専従者については、個人事業当時の退職金を必要経費とすることができないためだと思われます。
(法基通9-2-39)
以上です。