相続対策は、生前に行っておくことが重要です。
そのためには、現行法令だけでなく、これから改正がある項目についても対策しておく必要があります。
過去40年改正がなかった民法の相続に関する規定が、2018年7月6日の参議院本会議で可決・成立されました。
実際に適用されるのは、2019年~2020年あたりと予定されています。
改正される項目は以下のとおりです。
1 配偶者に対する終身又は一定期間、建物の使用を認める権利である居住権を新設する
2 婚姻20年以上である配偶者を優遇する
3 被相続人(故人)の介護や看病をしてきた親族を優遇する
4 被相続人が亡くなったことにより引き出せなくなった預金を一部換金可能にする
5 自筆証書遺言を書く場合のルールが緩和され、法務局に預けられるようにする制度を創設
【配偶者の居住権】
(1) 現在の法制度
現行法令では、配偶者がそれまで居住していた建物を相続で取得すると、他の財産が受取れなくなる場合が生じます。
たとえば、被相続人(故人)である旦那さんの財産が4,000万円で、内訳は自宅が2,000万円、銀行預金が2,000万円だったとします。
相続人は、被相続人の「妻」と「成人して既に別の世帯を持っている子」の二人だけだとすると、法定相続分は2分の1ずつとなりますので、妻が2,000万円の自宅を取得しますと、銀行預金は全て子のものとなってしまい、妻は生活費である銀行預金を受け取ることができなくなってしまいます。
自宅と銀行預金を半分ずつ取得したとしても、子がその自宅の半分を売却すると、妻は自宅に住み続けることができなくなってしまいます。
(2) 今回の民法改正
そこで、今回の民法改正は以下のように改善を図りました。
被相続人(故人)の配偶者は、「居住権」を取得すると、所有権がなくても被相続人の遺産である建物に、そのまま無償で住み続けることができるようになります。
それにより、遺産分割における一つの手法として、被相続人の遺言等により、配偶者に「配偶者居住権」を取得させることができようになります。
また、配偶者は自宅で居住を継続しながら、その他の財産も取得できるようになります。
つまり、自宅は「配偶者居住権」と「負担付所有権」の二つの権利に分かれます。すると遺産分割は、次のようにすることができます。
妻:「配偶者居住権」1,000万円と銀行預金1,000万円を取得
子:「負担付所有権」1,000万円と銀行預金1,000万円を取得
これにより、妻は、自宅に居住し続けることができ、生活資金も取得することができます。
居住権は、原則としてその配偶者が亡くなるまでの間、「負担付所有権」を持つ「子」に自宅の賃料などを支払わずに居住し続けることができる権利です。
被相続人の亡き後、配偶者が老後の生活に困らないように配慮されているのです。
(3) 注意すべきこと
「妻」は、「配偶者居住権」を次のいずれかの方法により取得することができます。
被相続人が生前に、「遺言書」に書いておき、「遺贈」する形にしておく
又は
相続開始後に遺産分割協議により相続する
もちろん、所有権を有する者(この場合「子」)の許諾なしに第三者に譲渡したり、使用・収益させたりすることはできません。
この住宅に、銀行などの担保が付されていた場合、担保権者である銀行は、生存配偶者との交渉が避けられない状態になると思われます。
「配偶者居住権」を得るためには、法務局で設定登記を行うことができます。登記をすると、第三者に対抗ですることができます。
(4) 短期居住権
また、配偶者居住権の他、「短期居住権」という制度も創設されました。
被相続人に配偶者が、配偶者居住権や所有権を取得しない場合、新居を探して引っ越すまでの間、「短期居住権」を取得することができるというものです。
「短期」とは、
遺産分割により、どの相続人の所有権となるかが確定する日
又は
相続開始から6か月
これらのいずれか遅い日までをいいます。
それまでは、建物に無償で住み続けることができることになっています。
この改正は、公布の日から2年を超えない範囲内において政令で定める日以降に施行される予定です。
以上です。